On Hold
10月6日は「中秋の名月」でした。この夜、月のクラシックコンサートに行ってきました。会場には僕一人。なんとも贅沢なコンサートでした。
暑い夏も終わり、日が沈むのも早くなってきましたね。夕方、ホテルの近所のレストランで早めの夕食を終え外に出るともう真っ暗でした。夏のいつまでも明るい夜空がすでに懐かしいです。スマホを手に取ると留守電が残っていることに気づきました。問い合わせをしていた業者からでした。
折り返すと自動音声で『ただいま電話が込み合っております。しばらくそのままでお待ちください』。保留の間流れているのは聞いたことのないクラシック音楽でした。何という名前の曲だろう。耳にスマホを当てながらホテルへ向かって歩き始め、ふと空を見上げると、まん丸の満月が目に入ってきました。え?目が離せなくなりました。
白い雲の隙間に穴ができたように見え、そこに月がすっぽりはまっている感じです。周りはまぁるく虹色に光っています。人通りの少ないまっすぐの道の真上に、まるで昔からそこに居座っているかのように。散らばった白い綿菓子の間に、パズルのピースのように月がぴったりとはまっているようにも見えます。
ジッと見ていると月の表情が変わっていくことに気づきました。風が少しずつ綿菓子を流していくので、月の顔がどんどん変わるんです。美術館に飾ってある絵は動きませんが、この空に飾ってある月の絵はどんどん変わっていくのです。飽きません。むしろいろんな表情を見落とさないようにじっと見ていないといけないので忙しくさえ感じてきました。それがその場から動けなくなった理由です。
そして、その間、僕にはクラシック音楽がずっと聞こえています。この道を歩いている人は他にもいるけど、この音楽は僕にしか聞こえていない。僕だけがクラシック音楽を聴きながらこの月を見上げているのです。なんと贅沢な時間でしょう。いつもならイライラするこの待ち時間なのに、この時ばかりはいつまでも保留してほしくなりました。頼むからまだ誰も対応するな。いつまでも夜空を見ながら立っていられました。初めての体験です。
そのうち通行人が一人立ち止まって写真を撮っているのが目に入りました。僕も何枚か撮ってみましたが一眼レフを持っている訳ではありません。何枚撮っても、目の前にある絵には敵いません。あの人はうまく撮れたのだろうか。でもあの人にはこの音楽は聞こえていない。このコンサート会場にいるのは僕だけなんです。なんかとても得した気分になりました。まだまだ流れ続ける保留音。いつまでも待てます。まっすぐ続く道の真上にまだいる月。綿菓子がその前を行進していく。最高の会場です。
『もしもし、たいへんお待たせ致しました』
あー。コンサートが終わってしまった瞬間です。10分?15分くらい待たされたでしょうか。普段ならイライラするこの時間、なんとも贅沢な時間でしたよ。
Looking skywards this week may be unusually rewarding.
今週は空を見上げると、ちょっと特別なものが見られるかもしれません
この言葉で始まるEconomist誌のニュース記事を読みました。"Looking skywards" なんと素敵な言葉でしょう。普通なら"looking up at the sky"と書くところ、とてつもなく詩的で素敵な表現。upwardやdownwardのような、上へ、下へ、という意味合いの、「空の方向」というskywards。
今回の満月はSuper Moonだったそうですね。月が地球に最も近づいたタイミングで満月になる現象。よって通常よりも見た目が大きく、明るくなる。Harvest Moonというのもあるそうです。秋の始まりに最も近い満月のこと。日本の「中秋の名月」に近いもののようです。
The Harvest Moon is not the only celestial spectacle this week.
今週は中秋の名月だけではなく、他にも空のイベントがあります
これも綺麗!「空のイベント」の表現に"celestial spectacle" とは。惚れ惚れする言葉のチョイスです。単なる「空」とせず、「天」や「宇宙」以上に神聖さの響きがする単語"celestial"です。あのイギリスの歌手Ed Sheeranが同名の曲を歌っていますね。ポケモンの歌に使われて耳にしたことがある方も多いはず。
記事によると今週は、地磁気活動が活発になるのでオーロラが見えるかもしれないそう。さらに北半球で「りゅう座流星群」が見れる可能性もあると。Super Moonだけではないのです。
But, since these heavenly treats must share a single sky, the bright Harvest Moon will probably outshine the rest—as is its privilege.
でも、これらの天体ショーはみんな同じ空を使うから、明るい中秋の名月が他を目立たなくさせてしまうかも——それも月の特権ってやつですね
月ってスゲー。明るすぎてオーロラや流星群の天体ショーをかすませてしまうなんて。
電話で話している間に、空に散らばっていた綿菓子が全て月の前を通り過ぎてしまっていました。クラシック音楽コンサートが終了した後、いつもより大きい月のまぶしさが際立っていましたが、それを月の特権ときたか。これまたなんともにくい表現。
音楽を聴きながらのお月見。ぜひお薦めです。次のSuper Moonは来月11月5日だそうです。
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