Say Grace

Happy Thursday! 「いただきます」の英訳ができたらすごい。「お疲れ様です」は?
寺ピー 2026.02.05
誰でも

アンちゃん、こと Anne Crescini。ご存知の方も多いと思いますが、最近、日本国籍を取得して念願の日本人になった方です。日本語が好きすぎてたまらないと言う、アメリカのバージニア州出身の北九州市立大学准教授。

日本国籍を取得したので、表記は “クレシーニ・アン” さんになります。先週の新聞の記事に彼女の面白いお話が載っていました。食事をする前に言う「いただきます」にぴったり当てはまる英訳が思いつかないと。なるほど、確かに。動物や植物の「命をいただく」という意味があるので、”Let’s eat.” という訳だとニュアンスがとても軽くなってしまうのです。これでは作ってくれた人への感謝の気持ちも見えてきませんよね。

“Grace”(食前の祈り)はどうかなと一瞬思ったのですが、いやこれはこれで意味が深いから違うなと思い直しました。

昔グアム・サイパンで働いていた会社を離れる際、同僚たちが僕のためにお別れ会を開いてくれた時のことです。わざわざたくさんの人が休みの日に集まってくれてとても嬉しかったのですが、食事が始まる際に “You wanna say grace?” と聞かれました。とても光栄なことだったのですが、僕以外全員がクリスチャンだったので丁重に断りました。アメリカの映画やドラマで観たことがある方も多いと思うのですが、“grace” とは、食事の前に神に感謝を伝えるために行う短いお祈りのことです。

別に断ったからといって変な雰囲気になることもありません。『あの人のお祈りは長いから』とか『あの人は堅いから』とか(笑)、その場の雰囲気に合わせて誰にお願いするかを決めることもよくあります。『いいよ、あんたやりなよ』とかいう会話も普通です。リーダー格の人に頼んだり、人柄が良い人に頼んだり、これをやることでちょっとした一体感が生まれるような感じです。

その場にいた人たちは特に深く考えずに言ってくれたのでしょうが、いざ grace となると『僕なんかが…』と思ってしまいました。宗教色が強いと感じ、クリスチャンではない僕には少し荷が重かったのです。しかしその後、さまざまな宗教的背景を持つ人たちが集まる場に参加する中で、宗教色を出さずに、ただ “食事と人への感謝” だけを静かに伝える言い方もあることを学びました。今ならそういう形で grace が言えます。

最後にAmen(アーメン)と言って締めることがほとんどですが、その場にいても僕は何も言いません。クリスチャンでなければそれでいいのです。ただその場に仲間として受け入れてもらえてることが光栄なのです。その時に初めて、本当にこの職場で良い関係が築けていたんだなとしみじみと思いました。

この grace を訳すのも難しいです。日本語にすると“お祈り”、“感謝の言葉”、“食前の祈り”などが思い浮かびますが、いずれも宗教的・文化的な重みが出ません。日本語だとちょっと軽いし、祈りというほど堅くないし、かと言って、“いただきます”でもない。

常日頃から言っていますが、全ての英語が日本語に訳せるわけではありません。不可能です。翻訳アプリが発達したから英語を勉強する必要がないという人もいますが、辞書で調べても完全な訳が見つからない言葉はたくさんあります。文化を知っていないと理解できない言葉があるからです。単語帳をただ丸暗記しても、深い理解まではたどり着かないのです。

言葉は外のペイント。中身が文化です。

そう言えばアンちゃんも、その記事で同じようなことを言っていました。

「家に例えるなら文化は目に見える窓やドアで、世界観は土台。そこまで深く知ることで初めて分かることがある」

クレシーニ・アン

みなさんが毎日職場で使ってる「お疲れさまです」もそうですよね。

仕事大変だったね、疲れたでしょ、さようなら、また明日もよろしく、という “複合的な気持ち” を一言で包む言葉は、英語には存在しません。英語は「行動」を言いますが、日本語は「状態や関係」を言います。日本語の美しさがよく出てる表現の代表だと思います。きっとこういう日本語の特性に魅了されたんでしょうね、彼女は。この人と対談したらどんな話に膨らんでいくだろう。面白そう。

今朝も皆さんお疲れさまです。
(あ、こういう使い方もありましたね)

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