Mind the Gap

Happy Thursday! イギリス英語と駅のアナウンスにまつわる感動のお話です。イギリスに行ってみたくなるかもしれません。
寺ピー 2025.11.06
誰でも

最近の日本の地下鉄や電車のホーム、車両との隙間が狭くなって、開閉ゲートも設置され、人が線路に落ちにくくなって、より安全になりましたよね。日本ってすごいなと思います。電車が近づく度に「白線の内側に下がってお待ちください」のアナウンスの他に、いろんな音楽が流れてきて注意を呼びかけます。日本に遊びに来てくれた海外の友人が、「日本の駅ってリズミカルだよね」と感想を漏らしていました。僕も日本に戻って、構内でいろんな音楽が鳴っているのを聞いて、あー日本にいるなぁ」としみじみ思うんです。

イギリスの地下鉄のホームでは、電車から乗り降りする際に

"Mind the Gap."

というアナウンスが流れます。いかにもイギリス英語らしい表現なので、「どういう意味?」と思う方も多いかもしれません。アメリカ英語に慣れていると "Watch the gap." や "Watch your step." などの表現の方がしっくりくるかもしれません。つまり「足元に注意」ということです。

"mind" という言葉には、「気をつけて」「注意して」といった意味があります。例えば、誰かが背後を通る時に "Mind your back" とそっと声をかけたりします。アメリカでは、"Behind you!" や "Coming through!" のように、よりストレートな言い回しが使われます。

最近 "Mind the Gap" にまつわる素敵なお話を知りました。このイギリスならではのアナウンス、YouTubeなどで検索すると実際のものを聞くことができますが、とっても味のある男性の声なんです。ちょっと古めかしいナレーションのような、でも渋くて、トンネルのなか奥深くまでエコーが響いていくような声。僕も15年ぶりにLondonに行った際に地下鉄を利用してこの声を聞き、懐かしくて感動した記憶があります。「あーイギリスにいるなぁ」としみじみ思うんです。

逆の立場で言うと、そうですねぇ。例えるなら、東海道新幹線に乗ったら必ず聞こえてくる女性の英語のアナウンス。あれを海外に長年住んで帰国した時に、車内で久しぶりに聞く感動とでも言いましょうか。

"Ladies and gentleman, welcome to the Shinkansen. This is a Nozomi Super Express bound for..."

とても優しく落ち着いた声で、耳に心地良いアナウンスですよね。Donna Burkeというオーストラリア人女性の声だそうです。本業は歌手なんですって。新幹線に乗る度に、「あー、この声この声」って皆さん思われているのではないでしょうか。すっかり、新幹線と言えばこの声、という程にiconicなものになりました。ご存知でした?マツダの "Zoom Zoom" の車のCM。あの囁くような声も、この方だそうですよ。

ちなみに僕の知り合いには、皆さんもきっと聞いたことのある、"♪ Hello チューリッヒ~ ♪" のあの保険のCMを歌っている方がいます。Mさんはとっても笑顔が素敵なVocalistなんですよ。プロの声って桁違いに凄いです。聞いた瞬間、別世界にいます。

日本にいて知らなかったのですが、僕の知っている "Mind the Gap" の声はどうやら2012年頃に違う声に変わったようです。アナウンスの音響システムの改修により、新しく録音された声のものにイギリス全土で統一されてしまったそうなんです。駅によっては、その時間担当の駅員がアナウンスを個別に入れるのも聞いたことがありましたが、基本はお決まりの録音された昔ながらの声でした。それが知らない間に消えてしまっていたとは、残念です。

この声の主はOswald Laurenceという舞台俳優で、1960年代に録音されたものなのだそうです。彼が亡くなった後も、妻のMargaret McCollumは夫の声を聞く為に毎日のように駅に通い、しばらくホームに座ってはアナウンスに耳を傾けていたそうです。ところがある日、アナウンスの声が変わっていることに気づきます。カセットテープの時代の録音システムの老築化により、地下鉄側は新しいものへ改修せざるを得なかったのです。夫の声に戻してくれるよう頼むものの、マスターテープもなく、諦めるよう伝えられます。しかしその後、気の毒に思ったある駅員が懸命になって音源を探し出し、CDに声を入れなおして彼女にプレゼントしました。この話は感動を呼び、デジタルでリマスターされた彼の声がEmbankment Stationのみで流れるようになったというのです。妻のMargaretが通い続けた駅でした。

彼女は現在もご存命だそうです。今後通えないようになっても、この駅ではずっと彼の声が流れ続けることが決まっているとのこと。夫に対する愛の記録だったその声は、いまや時を超えて街の一部となったのです。Mind the Gap。これは世界でも有名なアナウンスなんです。まさに「Theイギリスの地下鉄」という3語で、世界中の誰が聞いても瞬時にイギリスが頭に浮かぶフレーズ。この言葉が世界に広がるようになったのは、Oswald Laurenceがアナウンスを担当したからです。生前は舞台俳優としては売れなかった彼ですが、死後もいまだに毎日彼の声が駅に流れ続けることで有名になりました。

もし皆さんもLondonへ行く機会があったら、地下鉄のホームに立ってみて下さい。必ずMind the Gapという駅員のアナウンスが聞こえてきます。そして余裕があれば、Northern Lineに乗ってEmbankment Stationにも足を延ばしてみてはいかがでしょうか。Londonの中心地から地下鉄で10分ほどの距離です。今のアナウンスの元となった、オリジナルのOswald Laurenceの声を聞くことができます。

このニュースレターは木曜の早朝に配信されています。電車や地下鉄の中で読んで下さっている方も多いかと思います。ありがとうございます。Very good morning to you, and...
どうぞ電車の乗り降りにはお気をつけて。Mind the Gap!


彼の声は↓から聞くことができます。YouTubeでも検索できます。

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