Rejection is Redirection
関西の国際空港のチェックインカウンターの前に長い列。そこにヨーロッパから来たような家族連れが並んでいました。そして両親の横で、金髪の小学生ぐらいの男の子の兄弟が口をそろえて “Golden” を歌っていました。こんな場所でも歌われているのか、と驚きました。しかも金髪の男の子たちが。今いったい世界でどれくらいの大人・子供がこの歌を歌っているのでしょうか。
世界で大人気の Netflix オリジナルアニメ映画 “KPop Demon Hunters” (K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ)の劇中に出てくる曲です。今年2026年の1月のゴールデングローブ賞の受賞に続き、3月にはアカデミー賞を、K-POP楽曲としては初受賞しました。この大ヒット曲はプラチナ認定され、つまりは1億5千万回再生されたという計算になります。
うちの娘たちも、風呂場で大合唱しているこのサビ。
We’re goin’ up, up, up
It’s our moment
You know together we’re glowing
Gonna be, gonna be golden
映画を観たことがなくても、最近この曲を耳にすることが多いのではないでしょうか?
昨年、子供たちにせがまれて Netflix でこの映画を一緒に観ました。妻も子供も2回目、確かに面白かったです。お薦めです。
この曲は架空の女性 K-POPグループ「HUNTR/X(ハントリックス)」がストーリーの中で歌う曲で、実際には韓国人のEJAE、Audrey Nuna、Rei Amiの3人の声です。基本は英語ですが、一部に韓国語の歌詞も混じっています。メインボーカルは中央で歌っている EJAE(イージェイ)。3人ともアメリカで育ったので、ネイティブ英語を話します。
空港で金髪の男の子の兄弟がこの曲を歌っているのを聞いた時に瞬時に思い出した、EJAEのアカデミー受賞時のスピーチが下記のものです。涙を流しながらこう語った感動のシーンだったので、今でも鮮明に覚えています。
"Growing up, people made fun of me for liking K-pop, but now everyone is singing our song and all the Korean lyrics."
「子どもの頃、K-POPが好きだと言うとよくバカにされた。でも今では、みんなが私たちの曲を、韓国語の歌詞まで歌ってる」
とてつもないことです。アメリカで育った韓国人が歌う曲を、アジア人でもない金髪の子供たちが、日本で口ずさむまでになったのです。連絡先を知っていたら僕は即、空港からEJAEに連絡していたような出来事ですよ。
実は EJAE、BoA などK-POPを世界に広げた韓国最大級の芸能事務所に属していたことがあり、K-POPアイドルとしてのデビューを一時期夢見ていたそうなんです。しかし10年以上練習生として頑張ったものの、どのグループにも選ばれず、ソロデビューも認められないまま契約が終了してしまったそうです。そのときはK-POPそのものが嫌いになったと語っているインタビューを見たことがありますが、努力してもしても認められないようなら、そりゃそうなりますよね。
そのあと彼女は大学を卒業して、歌手ではなく、作る側、つまり裏方として再出発をすることに。これが彼女のキャリアの転機になります。作詞・作曲などプロデューサー業にまわり、 TWICE や BLACKPINK などの楽曲作りに参加、間もなくして音楽業界で「表に出ないヒットメーカー」として知られる存在にまでなったそうです。今回の映画の音楽制作にも初期段階から参加していました。10年以上デビューできなかった練習生が、世界の音楽賞を総なめにするという、これはまさに「逆転の物語」なんです。
"I'm so proud. I realize the song, this award is not about success. It's about resilience."
「本当に誇りに思う。この曲も、この賞も、成功そのものではなくて、負けない粘り強さだということに気づいたの」
1月のゴールデングローブ賞の受賞のスピーチも話題になりました。
“Rejection is redirection, and so never give up. And you know it's never too late to shine like you were born to be.”
「拒絶は、ただ進む向きを変えるということ。だから決してあきらめないで。それから、輝くのに遅すぎるなんてことはない。もともとあなたは輝くために生まれてきたのだから」
この“Shine like you were born to be.” は、歌詞の中にも出てくる言葉なんです。粋ですよね。”Golden” の歌詞は自分の人生そのものだったと語っていました。自分の人生の歌でもあったんですね。
それにしてもどうして、授賞式の時に壇上に上がってスピーチをするのはいつも EJAE だけなんだろうと思っていました。調べてみたところ、受賞者として上がれるのは「作曲者・作詞者・主要アーティスト」のみというルールがあるのだそうです。Rei Ami と Audrey Nuna は Golden の歌唱に参加したアーティストだけれども、作曲者でも主要アーティストでもない、サブボーカルなのだそうです。3人のユニットではなかったんですね。
実は仲が悪いのかな、なんて勘ぐっていたら、そういう問題ではなかったようです。3人でハグして涙ぐんでいるシーンを見たことがありますし、3人そろってトークショーで面白トークを繰り広げているのも見ました。そんな中でも、EJAE が壇上にいるときは、Rei Ami と Audrey Nuna はどこか憧れのようなまなざしで見上げていたのがとても印象的でした。きっと彼女へのリスペクトがあるのでしょう。
2週間ほど前、『 “Golden” がリリースされてからちょうど1年が経ちました』というポストを EJAE が出していました。英語と韓国語で感謝の意を動画で。僕の韓国人の友達たちも、きっと誇らしい気持ちだろうと思います。自分のことのように嬉しいです。
冒頭のサビのメロディー。EJAE が歯医者に向かって運転してる途中に思いついて、スマホに録音したんですって。きっと四六時中、音楽のことを考えているのでしょうね。
人生、最後までどうなるかわかりません。失敗だと思うようなことがあっても、それはただ進む方向が変わっただけなのかもしれませんよ。
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