Artemis II ー ⑥The Patch(最終回)

Happy Thursday! 少し間隔があいてしまいましたが、いよいよArtemis II シリーズ、感動の最終話です。
寺ピー 2026.08.20
誰でも

小学生の頃、ボーイスカウトに通っていた時期があります。キャンプやハイキング、募金活動などを通して、自立心や協調性を育てていく活動です。制服を着るのですが、年次が上がるにつれワッペンが少しずつ増えていき、キャンプに参加する度にその名前が入った特別なワッペンをもらえるのが楽しみでした。リュックサックに貼っていくと、自分の経験が形になって見え、嬉しかった記憶があります。この習慣は軍隊に由来すると言われていますが、スポーツにも似たような文化があります。野球のユニフォームには特別な試合のときに、腕や帽子に記念ワッペンが付けられるますよね。

宇宙飛行士たちも毎回ミッションの刺繍が入ったワッペンをつけて飛び立ちます。Artemis IIのクルーも当然、月へのミッションのデザインが入ったものをつけていました。僕も今回初めて知ったのですが、地球に帰還後はミッション完了のワッペンにつけかえるのだそうです。会見やイベントで登場する際につけているものは、宇宙へ行く前のものとは違うんですね。

彼らが地球へ戻ってきて海に着水すると、NAVYのRecovery Teamが迎えに来ます。今回このメンバーのヘルメットについていた Patch(ワッペン)が一時期注目を浴びていました。

”NOT FLAT WE CHECKED”

と刺繍されていたからです。(下の写真)

これは「地球は丸かったよ」という意味です。NASAはちゃんと宇宙へ行って、地球が丸いことを実際に確認してきたよ、というちょっとしたジョークです。

みなさんは地球は丸いと思っていますか?それとも flat(平ら)?
え?丸いに決まってるでしょ?地球儀って丸いよね。

実はアメリカには、地球は flat だと信じている人たちが一定数います。割合としては人口の1%程度だそうですが、政府や大手メディア、NASAといった科学権威などへの不信感が背景にはあると言われています。SNSで広がる都市伝説や陰謀論の影響を受けたり、科学的な情報を読み解く力が十分でない人がその中に多いともされています。こうした科学への不信感は、コロナ禍での対応にも影響しました。公衆衛生の専門家と政治リーダーの発言が食い違う場面があり、それが不信感をさらに強めたという見方もあります。

みなさんが学校で習った通り、もちろん地球は丸いです。丸くなければ、なぜ日の出や日の入りがあるのだという話です。地球が flat なら、一日中、24時間明るいはずです。地上ではわかりませんが、飛行機でも高い高度まで上がると、地球の丸みが少し見えてくることが確認できます。

「Apollo計画で人類が月に降りたのも嘘だ」という話は今も一部で根強く残っています。これに対しアメリカの有名な天体物理学者 Neil deGrasse Tyson が呆れながらこう語っていました。

『嘘だとしたらなぜ9回も嘘をつくのか。人類は9回月へ行って、うち6回月面に着陸をしている。嘘をつくなら1回でよくないか?莫大な費用を投じて打ち上げたロケットはいったいどこへ行ったというのか。何千人もいるNASAの職員が全員嘘をつき通しているのか』

事実として、Apollo計画では月に大きな反射鏡を設置してきました。そのお陰で、地球から強いレーザー光を当てて、その光が往復して戻ってくる時間を計ることによって距離を算出できるようになり、月からのとても正確な距離がわかるようになったのです。

あまり一般には知られていないようなのですが、このArtemis計画は月を探査することが目的ではありません。火星に人類を送るための技術と運用を月で実験しているのです。月を、火星へ行くための実験場として使っているのです。NASAの公式発表によると、2028年の終わりのArtemis Vまで計画がありますが、月の周りを回る小さな宇宙ステーションを作る予定です。現在ある国際宇宙ステーションは地球の上に位置しますが、次は遠く離れた月の周りに作る予定です。それは月に降りるための中継基地のような扱いで、これも火星に行くための練習場所になるのです。Apolloでは月探査が目的でしたが、今回の Artemis はもっと遠くの、もっと壮大な計画を視野に入れている、まったく違う計画なのです。

ところで、Artemis という名前をみなさんは本当にご存知でしょうか?

実はギリシャ神話の中で、Apollo と Artemis は双子の兄妹なのです。人類を初めて月に送ったApollo計画の Apollo は太陽の神(男)でした。その双子の妹が今回の月の女神 Artemis なのです。そして何度もこのシリーズで登場している Artemis II のクルーを乗せた宇宙船 Orion は、神話の中では Artemis の親しい仲間(恋人という説もあり)でした。このNASAのネーミングはさすがで、粋で、秀逸で、大きな話題を呼びました。僕も初めてこの関係性を知った時は鳥肌が立ちました。Apollo の時代は男社会だったという反省から、NASAはミッションの名前を Artemis という女性の名前にし、最初から女性を月に送ると宣言していたのです。『Artemis II ー ③Crew』でも書いたように、Christina Koch が選ばれ、彼女のスタンバイクルーも女性でした。

いま偉そうにしている人や、すべて自分の力で生きてきたかのように振る舞う人がいますが、私たちはみな、先人たちの積み重ねの上に立っています。生まれたときにはすでに多くの技術が整い、便利な暮らしが用意されていました。だからこそ、この文明を次の世代へ渡していくことが、私たちの役目なのだと思います。宇宙に目を向けると、日々の小さな争いがバカバカしく感じられます。Apollo と Artemis の兄妹が未来へ物語をつないだように、私たちも次の時代へ何かを託していく。日々のなにげない暮らしこそが、Artemis計画の一部なのかもしれません。

🌏全6話 おわり🌖

***


どの話が一番面白かったですか?印象に残った言葉や場面はありますか?お聞かせいただけると嬉しいです。長いシリーズを最後まで読んでくださってありがとうございました。

無料で「Breakfast@Bird's Eye View」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
旅客機からの緊急脱出
サポートメンバー限定
裏Bird(July 2026)
誰でも
For the One at Haneda
誰でも
Golden
誰でも
Rejection is Redirection
サポートメンバー限定
裏Bird(June 2026)
誰でも
The Revolving Door
誰でも
Artemis II ー ⑤Rise