英語の裏道 —あなたを裏切る訳— #4
気が合う人とはすぐに打ち解ける。
を英訳してみてください。
どんな英文が浮かびますか?
僕はこう訳してみました。
皆さんとは違う発想で予想を裏切ってみようと思います。
You just click with some people.
いかがでしょうか。もちろんこれが唯一の答えではありません。数学の解答とは違います。世の中には何通りもの訳があります。その時の状況や口調などでもニュアンスは変わってきます。まず僕の頭にはclickという単語が浮かんだのですが、皆さんにはどんな単語のチョイスがあったでしょうか。
Clickと言う言葉を私達が日常よく使う場面は、パソコンのマウスを使用する時だと思います。指で軽くポチっと押すあの動作一つで画面上の表示がパッと変わります。あれが一人ひとりの脳内で行われているような状態。英語の感覚としてこれを持っているといろんな場面で使えて便利です。
この感覚によって例えば、ずっと考えていた問題がわかった瞬間に「あー、そういうことか!」「そうだったの?!」と出る声を、"It clicked." に変えることができます。
またこの表現で人と人とのつながりを表すこともできます。まるで相手との目に見えない回路がつながった時のようなコネクションの音とでも言いましょうか。
僕の仕事はとてもたくさんの人とのつながりの結果成し遂げられています。ご存知の通り一つの建物の中に全員が集まって行われるような種類の仕事ではありません。毎回違う組み合わせのCAと飛びますし、全国あちこちの目的地にいる整備士と話をします。各空港のターミナル内で支援してくれている人たちや、出発・到着の前後に飛行機の周りでサポートしてくれている人たちもいます。たくさんの荷物を貨物室から出し入れしてくれる人たちも、燃料を飛行機に入れてくれる人たちだっています。本部には、飛行機に触れることも見ることすらないまま、毎日我々の運航を支えてくれているスタッフが大勢います。名前どころか顔すら知らない人たちの方が断然多いのです。そんな中でもふとした瞬間に、電話なり対面なり会話の場が生まれることがあります。無愛想な人もいれば、恥ずかしそうに話す人もいたり、人それぞれです。そして不思議なことになぜか話が弾み、もう少し話していたいなぁ、仲良くなれそうだなぁ、という人に巡り合う時もあるのです。まるでclickするボタンを押したような瞬間が訪れる感覚です。
皆さんもカフェやレストランでそういう店員に巡り合ったことないですか。CAもそうですが、お客さんと直接接するウェイターやバリスタは、そういう一生で一度だけの会話になるかもしれない瞬間を楽しんでいるように見えます。
意外に思われるかもしれませんが、実はこの文の中にある "just" もとても重要な単語なんです。この一語があるかないかで随分文章からにじみ出てくる雰囲気が変わるものです。地味なキャラですが、重要な脇役を担っています。このキャラ不在だと、淡々と説明しているだけの印象を受ける文ですが、justが入るだけで「そうなるよねぇ」みたいな文に変わります。言葉では表現できない柔らかいニュアンスが入るんです。日本語の「なんかね」「そうだよね」みたいな、うまく説明できないけどなんかそうなんだよ、というような表現に適しています。感情がにじみ出るような、言葉の呼吸を整えるような、そんな使い方ができるものです。
Clickという主役と、justという脇役で成り立っているこの文ですが、柔らかい印象が伝わりますでしょうか。人とのコネクションという話にはピッタリな配役だと思います。clickとjustの波長すら合っているような。
話始めた瞬間に不思議と「この人とは波長が合う」って感じる時ありますよね。マウスのようにクリックの音は聞こえませんが、心の中で響くコネクションの音は感じるような。人とのつながりは努力して得るものではなく、ふと見つかるものなのかもしれませんね。まるで周波数がピタリと合うように。
いかがでしょうか、clickの使い方。
Did you feel it click?
今回も皆さんの予想を裏切ることができたでしょうか?
ではまた、辞書には載ってない裏道でお会いしましょう。
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