Changed the World?
お昼時、アメリカの Dunkin' Donuts(ダンキンドーナツ)で、消防士二人がドーナツを買う為に長い列に並んでいました。もう少しで自分たちの番がくるという時、出動の連絡が入りました。どこかで火事です。すぐに行かなければいけません。ランチをあきらめて急いで店を出ようとしたその二人に、出口に向かっていた会計済みのカップルが、買ったばかりのドーナツが入った袋を丸ごと消防士たちに差し出したそうです。同じく出口付近にいた男性もそれを見て、自分のドーナツの袋を消防士たちに渡したそうです。
その後、そのカップルと男性は再び長い列に並び直しましたが、全てを見ていた店長はこの三人からドーナツの代金は取らなかったそうです。
A random act of kindness(見返りを求めない親切)はよく欧米で見られる光景です。開けたドアを後ろの人のために開けておいたり、スーパーの駐車場で重い物を車のトランクに入れるのを手伝ってあげたり、電車やバスでベビーカーを一緒に持ち上げてあげたり。困っている人に当然のように手を差し伸べ、相手はありがとうと軽く言ってお互い去っていく。とても自然な行動です。
僕も帰国したばかりの頃、よく後ろの人のために閉まるドアを開けて待っていたりしたのですが、もう日本でそういうことをするのはやめました。まるで命の恩人にでもなったかのように何度もお礼を言われたり、なんでずっと開けて待ってるの?みたいな変な目で見られたり、逆に走らせてしまったりと、とてもawkward(気まずい)なんです。
飛行機の中で上の棚から、重そうな荷物を女性のために降ろしてあげようとしたら、「それ私の荷物ですけど」と怒られたこともありました。文化の違いをひしひしと感じ、手を差し伸べることがこんなに裏目に出るなら、いっそ何もしない方がいいとある日思ったのです。
アメリカに長年住んでいる友人が日本に一時帰国した時、電車の駅で待ち合わせをしていた時のことです。彼は改札から出てくるやいなや、「なんでこんなに日本にいる日本人って不親切なの?!」と怒り始めました。誰もベビーカーを押してるお母さんを助けないし、ドアも構わず自分の目の前で閉めていく、と。そうだよね、と僕は理解を示し、自分も帰国した当初同じように感じていた話をしました。
こうも説明しました。文化が違うのです。日本人はとても親切だと思います。ただ採用しているシステムの種類が違うだけと言いますか。知らない人にでもさっと気軽に手を差し出す欧米式と、自分と少しでも接点のある人には親身になって接する日本式、とでも言いましょうか。
そもそも、人に迷惑をかけてはいけない、という気持ちが根底にあるように思われます。他人に手伝ってもらって、その人に迷惑がかかってしまっては失礼であるという強い気持ちが。
この記事↓を読んでくださった読者のRさんが、イギリスを旅行中に起こった体験談を教えてくれました。
駅のコインロッカーを利用しようとしたが、小銭がなく困っていた。すると近くにいた人が小銭を出してくれた。慌てて紙幣を差し出すと「多すぎる」と言われ、逆に「どこから来たの?」と。「旅行ね。じゃあ日本に帰って、外国人が困っているのを見たら助けてあげて。それで、おあいこだ」と。その人は私にとってはイギリス大使です。
きっとRさんはその後、どこかで機会があった時に「お返し」をしたか、もしくは、これからする為に機会を伺っているところだと思います。A random act of kindnessはこうやって次々とバトンを渡すかのように世界中に広がっていくものです。ダンキンドーナツでの消防士に対する小さな親切もそうでした。一人の行いを見て、私もと、次々にその場にいた人が手を差し伸べる。
数年前に、ファーストフード店の前で小さな子供を連れたお母さんが、持ち帰りのフライドポテトを全て路上に落としてしまったところを目撃しました。たくさんの荷物を持ちながら、子供と一緒に歩いていて、不安定な持ち方をしていたのでしょう。ちょうど僕は食べ終わったトレイを持ってゴミ箱に持っていく途中でそれを目にしたので、とっさに落ちたポテトを紙ですくってトレイに全て載せました。「捨てておきますよ」と言ってそのままゴミ箱に。小さい子供を連れてとてもじゃないですが、道端でかがんで片づける余裕なんてないだろうと思ったのです。「すみません」と言ってくれましたが、心から気の毒に思ってのことでした。
その時僕は娘(当時10歳)と一緒にいたのですが、小さな声で「Daddyかっこいい」と、ゴミ箱の横で言ってくれました。この行為が「かっこいい」という部類に入るとは微塵も思っていなかったのですが、これが刺激になり、いつか娘が同じように誰かのために役に立つことをしてくれるかもしれませんね。
僕のこんな、なんでもない行為で世界が変わる訳はありません。そもそも変えようとする意志すらありません。でも、毎日一人ひとりがあちこちで小さな親切を繰り返したら、それが当たり前の光景になったら、世界は変わったことになるとは思います。
"How do we change the world? One random act of kindness at a time."
「どうやれば世界を変えれると思う?小さな親切を一つずつ積み重ねていくんだよ」
*This article was inspired by R san.
すでに登録済みの方は こちら