Ambassador
京都のあるカフェで朝食を食べていた時、子供連れの四人家族が入ってきました。まだお客さんは少ない時間帯だったのでとても静かな店内でした。その家族は目立たないように小さな声で話していましたが、中国語が耳に入ってきました。京都は観光客だらけ、別に珍しい光景ではありません。とても節度のある家族という印象を受けました。小学校低学年と幼稚園くらいの子供二人もとても静かにしていました。対応をしていたのは、僕を席まで案内して注文をとってくれた女性のウエイトレス。この方もとても静かな控えめな印象でした。よく聞こえませんが英語で話しているよう。
注文を済ませた後、母親がおそらくトイレの場所を聞いて子供と出ていきました。ジッと見ていたわけではないのですが、店内に戻ってきた後しばらく入口付近で動かないのに気づきました。子供は何やら座ったり立ったりして遊んでいます。その隣で母親は先程のウェイトレスと話をしていました。この姿がとても微笑ましかったんです。おそらく二人ともネイティブではない英語で、身振り手振りを交えながら肩を並べるようにして話しているのです。ときおり笑いながら。内容までは聞こえませんが、とても平和な美しい光景に見えました。急いで子供を連れて席に座るわけでもなく、ウェイトレスも持ち場に戻るわけでもなく。とても静かなカフェの中、ひそひそ話で盛り上がっている一角だけが、まるで綺麗に浮き上がっているかのように目を引きました。
この二人の間には明らかに心のconnectionが見えて、双方ともに長い間記憶に残る時間を今まさに作っている、そういう風に感じ取れました。SNSで中国人へのヘイトをよく目にしますが、その空間には穏やかで友好的な関係が広がっているだけでした。お互いの国に対する印象がこれで大方決まることを考えると、この二人は国を代表して話していることにもなります。二国が友好を結ぶ瞬間に立ち会えてとても嬉しかったです。二人とも立派なAmbassador(大使)に見えました。対立の気配はまるでなく、お互いに平和をもたらす関係を築いているのですから。
英語では、日本に駐在している大使のことをAmbassador to Japanと言います。逆に中国に駐在している場合はAmbassador to China。inではなくtoです。an invitation to the party「パーティーへの招待」と同じで、「日本への大使」という意味でtoとなるのです。
半年ほど前だったでしょうか、日本のAmbassador to United Kingdomの動画がイギリスでバズっていました。鈴木浩・駐英大使がウェールズの国歌をウェールズ語で歌って大称賛されていました。イギリスやヨーロッパに居住しないとピンと来ないことなんですが、実はイギリスには4つの「国」があります。イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド。それぞれ独立国ではありません。アメリカの州に近いような、でも違う、イギリスという国を構成しているやはり「国」なんです。かと言って入「国」にパスポートがいるわけではありません。
サッカーやラグビーの大会で「イングランド代表」を耳にすることがあると思いますが、当然そこにはスコットランドなどの他の「国」の選手は含まれていません。これが「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」がイギリスの正式名称である所以です。皆さんがロンドンのようないわゆる「イギリス」とイメージする場所は「イングランド」という国なんです。スコットランドやウェールズ、北アイルランド出身の人はそれぞれに自分の国にプライドを持っています。僕はイギリスにいた頃もウェールズ語なんてさっぱりわかりませんでした。一言どころか、一文字も聞き取れません。その言語でウェールズの国歌を歌った鈴木大使、たいしたもんです。イギリスのニュースでも取り上げられていて、いま現地では大人気の方です。日本人としても誇らしいです。こういう外交官が増えるといいですね。こういう人物が各国にいると国際関係は円滑に進むはずです。
イギリスの駐日大使のジュリア・ロングボトム(Julia Longbottom)氏もとても流暢な日本語を話されます。この二人が同時に着任している現在の日英関係はとても友好的。理想的な、まさにお手本のような関係ができあがっています。またロシアと国境を接するジョージアの駐日大使、ティムラズ・レジャバ氏も今、日本で大人気。とても綺麗な日本語を話され、若くてユーモアもあるのでSNSを駆使して何度もバズらせるコメントをアップさせています。時代の流れですね。
読者Pさんから素敵なお話を伺いました。ヨルダンのインターナショナルスクールに通っていた、小学校4年生頃のエピソードです。スクールバスに乗って信号待ちをしている時に、横にアジア人が運転する車が止まったそうです。Pさんの方を向いて何やら車の中の二人が話している。アジアのどこから来たのか話しているのではととっさに思ったPさんは、窓に漢字の「日本」を指で書いたそうです。それを見た相手は同じように漢字で「中国」と。ちょうど信号が変わって双方笑顔で別れたそうです。お互いに漢字が書けるからこそ成り立つ会話。イスラムの国でこんな心のconnectionが生まれることがあるんですね。異国にいると、日本人・中国人・韓国人は皆、同じアジア人として生きているので、お互いに優しく接したり、助け合ったりする場面に遭遇することがしばしばあります。もちろん人にもよりますが。箸を使って米を食べる、筆を使って漢字を書く、などの共通の文化を持つアジア人の間に親近感が生まれるのはむしろ当然なことかもしれません。
何十年も前の話しだそうですがこういう出来事は一生忘れないものです。その場にいた三人は立派なAmbassadorですよね。京都で見たあの二人も。このような非公式のAmbassadorは世界のあちこちにたくさんいます。ご存知でしたか?あなたもいつでもAmbassadorになれるって。世界の平和に貢献してみませんか?
*This article was inspired by P san.
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