Talk Show

Happy Thursday! なぜこのことについて僕はここまで書くのか。僕の中にいるアメリカ人が黙っていられないのです。
寺ピー 2025.09.25
誰でも

先週9月15日、アメリカ・ロサンゼルスでテレビ界のアカデミー賞と呼ばれる「エミー賞」の発表がありました。昨年のこの時期は「SHOGUN 将軍」が18冠に輝き日本でも大騒ぎでしたね。(「SHOGUN 将軍」の記事はこちらから↓)

今年2025年の「トークシリーズ部門」のエミーに"The Late Show with Stephen Colbert"が選ばれました。これ、ただ選ばれた、おめでとうございます、という話ではないのです。

このアメリカで絶大な人気を誇るトークショーは今シーズンでの終了(2026年5月)が決まっています。テレビ局のCBSは「財政的な判断」としていますが、政治的な圧力に負けたと信じている人が多くいます。番組打ち切りの発表は今年7月に突然ありました。このショーの司会者Stephen Colbert(スティーヴン・コルベア)は、トランプ大統領の言動を皮肉りながら、毎晩のように批判的なコメントを口にしています。ここまで連日揶揄される大統領は、アメリカ史でも異例でしょう。彼だけではありません。多くのコメディアンが大統領を格好のターゲットにしています。トランプ政権がテレビ局に圧力をかけたのではないか。そんな憶測が広がるのも、無理はありません。

アメリカでは、各テレビ局が深夜に放送するトークショーがとても人気です。イギリスにも辛口の風刺番組がありますが、政治を笑いのネタにできるというのは、民主主義の健全な証しです。風刺や皮肉は、単なる攻撃ではなく、社会との対話でもあるのです。

僕も学生の頃は、Jay Leno(ジェイ・レノ)の"The Tonight Show"をはじめ、いろんなトークショーを毎晩のように観ていました。ハリウッド俳優や歌手、様々な著名人がゲストに招かれ、軽妙なトークを繰り広げるんです。そうですねぇ、「笑っていいとも!」や「徹子の部屋」の超豪華版と言えば少しは雰囲気が伝わるでしょうか。そして別のコーナーでは時の政権を皮肉るような風刺も展開される。

当時のある授業の教授が、とても親しみやすかったのを覚えています。初老の女性でしたが、学生と同じ目線で日々を過ごしているように見えました。学生を取り込むために意図的にそうしていたのか、それとも単にテレビが好きだったのかはわかりませんが、授業の始まりはいつも前夜のコメディ番組やトークショーの話から始まるのです。「昨日観た?あれ面白かったよね」と。僕も話を合わせるために観ていたわけではありませんが、面白かった内容を共有できる人がたくさんクラスにいるのは、毎回嬉しく感じました。そして何より、トークショーが国民の日常生活に深く根づいていることを実感していました。

この驚きの発表に全米が揺れていた矢先、別の局ABCの番組"Jimmy Kimmel Live!"(ジミー・キンメル)も無期限停止されることが発表されました。2025年9月17日、エミー賞の2日後のことです。両番組とも決定後に、トランプ大統領はインタビューで「当然だ」と言い放ち、反感を買いました。

立て続けに起こったトークショーの突然の終了は、“blatant censorship”(露骨な検閲)だとして、国民の怒りを呼びました。民主党(野党)からは、トランプ政権による圧力は「言論の自由」に反するとの批判が上がり、共和党(与党)の一部からも疑問の声が漏れています。オバマ前大統領は「気に入らない記者やコメンテーターを口封じしたり、解雇を促すようなメディアへの脅しは危険だ」と語っています。

多くの人々はテレビ局が現政権に屈したと考え、ABCやその親会社であるDisneyの本社前では抗議デモが行われました。Disneyの株は急落し、ボイコットの動きも広がったためか、1週間後にはJimmy Kimmelの番組復帰が決まりました。ちょうど昨日のことです。僕も復帰した番組を観ました。スタジオではスタンディングオベーションで迎えられ、番組はいつも通り、政治への鋭い風刺から始まりました。その中で

"This show is not important. What is important is that we get to live in the country that allows us to have a show like this."
Jimmy Kimmel
「このショーが大事なのではない。大事なのは、このような風刺番組が放送できる国に住んでいるということだ

と発言し、観客席からは大きな拍手が湧きました。ロシアや中東では、コメディアンが現政権を批判すると投獄されることもあります。アメリカはそんな国ではない、そうなってはいけないという思いが、言葉の奥に込められていました。

Stephen Cobertもエミー受賞スピーチの締めの言葉で、こんなにも自分の国を愛したことはないと語っていました。こんな検閲を受ける国であってほしくないと皆が思っているのです。その後にこの

"Stay strong. Be brave. And if the elevator tries to bring you down, go crazy and punch a higher floor. Woo!" 「負けるな。勇気を出して。もし引きずり下ろされそうになったら、思い切りぶちかまして、もっと高い階を目指してやれ!」
Stephen Colbert

超カッコよかったです。大歓声の中、番組スタッフ達一人一人とハグをして、鳥肌が立ちました。

この言葉ちょっと気になったので調べてみました。

"if the elevator tries to bring you down, go crazy and punch a higher floor."
"Let's Go Crazy" by Prince

即席で考えれるような言葉ではないなと思ったのです。するとなんとこれ、今は亡きPrinceの歌"Let's Go Crazy"の歌詞から引用したものなんだそうです。僕はプリンスのファンではなかったのでほとんど彼の歌は知りませんが、なるほどそうだったのか、それでウケてたのか。

これは単なる騒動ではなく、民主主義の健全性を問う戦いです。Tom HanksやRobert De Niroら、400人以上の著名人が連盟でJimmy Kimmelへの支持を表明しました。そしてStephen Cobertへのエミー賞は、検閲しようとしている政府へのエンターテインメント界からの抗議なのです。

Stephen Cobertは自身の番組内でJimmy Kimmelの復帰が決まったことをまるで自分のことのように喜んでいました。お互い友人でもあり、コメディアンという同業者でもある2人が、現政権と戦っているからです。そして「もしかして自分の番組も中止の撤回あるかな?」とニヤリとしていました。これだけの人気者、バックには世論がついています。有り得ない話ではありません。なんせ先週エミー賞を獲得した番組です。「財政的理由」なんてとても考えられないのです。

僕がアメリカで学んだのは健全な民主主義です。誰が合ってて、間違ってる、意見が合わないから敵、ではないのです。その時代にアメリカで教育を受けることができたのは生涯の宝です。今の分断されているアメリカを見るととても悲しい気持ちになりますが、エミー賞の舞台を見て嬉しくなりました。ちゃんと正義と民主主義が見えたからです。

Never seek revenge. Rotten fruits will fall by themselves.
Author Unknown
仕返しなんてしなくていい。腐った実は、放っておいても勝手に落ちるから。
作者不明
***

今回の"The Late Show with Stephen Colbert"のエミーの受賞スピーチは下から↓

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