Flamingo
夕方、宿泊しているホテルから外へ出た時です。晴れた空にぽつぽつと浮かんでいる白い雲の下の部分が、ピンク色の間接照明のような明かりにそれぞれ灯されているように見えました。わぁ綺麗な色だなぁ。その時に頭に浮かんだのは、随筆家の岡部伊都子の言葉でした。
随分前に読んだ、千田堅吉著『京都、唐紙屋長右衛門の手仕事』という本の中で紹介されていたものなんですが、「泣きたくなるような桜色」という言葉。 唐紙とは、襖や屏風を装飾する、和紙を素材とした木版刷りの工芸品なんですが、同じく随筆家の白洲正子の書斎にある襖に使われた唐紙の色を見て、そう語ったという逸話があります。それはそれは素晴らしい作品なんでしょうね。色が語る感情の深さに心を揺さぶられたのを覚えています。侘び寂びや季節の移ろいが感じられる、とても日本的な表現だと思います。脱帽です。僕がその日見たピンク色をどうやって表現すればいいのだろうと考えた時に、ふと思い出した表現でした。
夕焼けの色は一般的に「赤い」と表現されることが多いですよね。日が沈むと、太陽の光が頭上からではなく横から差し込むようになります。懐中電灯を真上から照らすと強い光に見えますが、斜めにすると光が弱まりますよね。これは光が進む距離が長くなるからです。光が長い距離を通るほど、青い光は散乱し、赤い光だけが残って届くのです。信号の「止まれ」が赤なのも、遠くからでも見えやすい性質があるからです。空に浮かぶ雲の下側だけが赤く染まるのは、太陽の光が低い角度から差し込んでいる証拠です。つまり、同じ雲でも、同じ時間帯に上空から見れば赤くは見えないのです。
夕焼け時の雲、その日僕には赤ではなくピンクに見えました。しかもかわいいピンクに。これには僕の内面の状態が大きく影響しているように思えます。
Colors, like features, follow the changes of the emotions.
色は、顔の表情のように、心の変化を描き出す。
まさにこの通り。同じものを同じ時間帯に見ても、人によって感じとることは違うはずです。それは一人一人の内面の状態が異なるからです。忙しくてバタバタ、あるいはイライラしている時に、あまり空を見上げることはしないと思いますが、見たとしてもおそらく色を「味わう」なんていう心の余裕もないでしょう。色の違いにさえ気づかないかもしれません。
その時僕は仕事を終えホッとしていました。特にこの日は早朝からの、天候の悪い航路を通る長い勤務から解放されたところでした。部屋でコーヒーを1杯味わって外出した時のこと。だからこそ安堵感に満ち溢れるpeacefulな色に見えたのだと思います。僕にはあの雲の下の間接照明は「フラミンゴのピンク色」に見えたんです。「わぁフラミンゴの色みたい」というような少し口角が上がった表情と、なんとも気の抜けたリラックス感が伝わってきませんか?他の鳥のさえずりさえも一緒に聞こえてきそうな平和な感じがしてきませんか?
色に宿る感情の揺らぎ。なんと面白い。
今日の夕方空を見上げてみて下さい。あなたに見える色は何色なんでしょう。
May the rest of your day be peaceful.
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