Artemis II ー ⑤Rise

Happy Thursday! Artemis II のシリーズも、いよいよあと1話。本当はまだ3話くらい書けるのですが、ここは宇宙専門のレターではないので、このあたりで。次回でいったん区切りますね。
寺ピー 2026.06.18
誰でも

宇宙飛行士が飛び立つとき、必ずぬいぐるみを宇宙へ持って行く慣習があるのをご存知ですか?

スペースシャトルの時代が終わったあと、ISS(International Space Station:国際宇宙ステーション)に人間が長期滞在するようになった 2000年代から、その慣習はゆっくりと NASA 内で定着していったようです。

家族とのつながりを示すという目的の他にも、無重力状態であることが一瞬にしてわかるという理由で、地球との中継の際にぬいぐるみを浮かせる映像を見せる目的もあるようです。Zero-Gravity Indicator(ゼロ G Indicator)という名前があり、略して ZGI と呼ばれています。

今回の Artemis II では、初めて ZGI(ぬいぐるみ)のデザインを一般公募しました。そして見事選ばれたのがこれです。

Artemis II Crew Arrives at Launch Site, Shares Moon Mascot, nasa.gov

Artemis II Crew Arrives at Launch Site, Shares Moon Mascot, nasa.gov

50か国以上から数千件もの応募があり、トップ5 に残ったのは、アメリカの 2作品に加えて、フィンランド、カナダ、ペルーの3カ国からの作品でした。最終的に選ばれたのはアメリカ・カリフォルニア州に住む小学校二年生、Lucas Ye 君の作品。このマスコットの名前は “Rise”

選ばれた理由は、知れば知るほど秀逸さが伝わってきます。まず、このモチーフ。アポロ8号の象徴的な「Earthrise(地球の出)」からインスピレーションを得ていて、顔が「月」、帽子が「地球」を表しています。月から地球が昇る光景を、そのままキャラクターにしたわけです。「Sunrise(日の出)」ならぬ、「Earthrise(地球の出)」です。帽子のつばは、月と地球の間に広がる宇宙空間。見事な発想です。この少年は打ち上げ当日 NASA へ招かれ、たくさんのメディアで Rise とともに撮影されました。

底にはチャックがついていて、中には世界中から公募された560万人以上の名前が記録されたSDカードが収納されていました。実はこれ、小学校二年生が描いたデザインをもとに、NASA の従業員がミシンで手作りしたものなんです。写真だけ見ると、小学生が作ったもののようにも見えますが、違うのです。

NASA の厳格な基準をクリアしたものでないと、宇宙には持っていけないのだそうです。狭い船内で計器類に傷をつけてしまうようなものではダメですし、火災があっても燃えないような素材でなければなりません。宇宙空間でも気体が放出されないようなもので作られていないといけません。つまり接着剤なんて使えないのです。ミシンで丁寧に手作りをするしかありません。このメイキング動画が YouTube で観れますので貼っておきます。面白いですよ。

これだけではありません。背中にはなんと、アポロ11号が月面着陸した際の「足跡」のマークがついてるんです。ニール・アームストロングが

That's one small step for a man, one giant leap for mankind.
これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である

Neil Armstrong

と言った時に月面につけた足跡です。よくそこまで考えてデザインにしたなと、鳥肌が立ちました。世界中から選ばれるだけあります。

宇宙船 Orion が地球に戻ってくる時の速度は秒速 6 マイルだそうです。ピンとこないと思います。音速に換算するとマッハ 29。戦闘機が飛ぶスピードは マッハ2やマッハ3です。29 がいかにおかしな数字かがわかると思います。もっとわかりやすく言い換えると時速 34,700 km。現実離れした数字であるがゆえに、むしろ想像しづらくなったでしょうか。面白いことに、当人たちは大気圏に入るまでそんなにものすごいスピードで飛んでいるという体感はないそうです。大気圏に突入して空気抵抗により宇宙船が火の玉になり、一気にスピードが落ちていくのです。そしてだんだんと重力を感じるようになると。地表が近づいてくると、何度かにわけて10個以上のパラシュートを展開させます。そうすることでさらに減速させ、最後は海に splash(着水)させるのです。

海で待っているのはアメリカ海軍のリカバリーチームです。外から Orion のドアを開けて、4人のクルーを出してくれます。中にあるものはすべて後から回収できるので必要最低限のものだけ持って出ます。(ちなみに時代ですね。このクルーは史上初、個人の iPhone の持参を許されていました)その際、船長の Reid Wiseman は Rise を船内に残していくように言われても決して離さなかったそうです。8才の子供がデザインした大事なマスコットであることと、そこには 560 万人以上の名前が入っていたからでしょうか。

正確には 5,647,889人の名前です。この数字は今でも NASA のHPで見れます。世界中の一般の人々がインターネットで登録したものです。実は僕も応募してみようと思っていたのですが、仕事で忙しくしている間に募集が終わってしまっていたんです。とても残念でした。自分の名前が NASA の SDカードに入って宇宙へ行き、PDF で Boarding Pass(搭乗証明書)がもらえたんですよ。"NASA – Send Your Name to the Moon” というすべて無料の企画でした。子供がデザインした ZGI とともに、一般人の名前を月の裏側まで持って行ってくれる。とても素敵で、夢のある企画です。

早くも次回の Artemis III のクルーが先週 NASA で発表されました。その次の Artemis IV で月面着陸を成功させるための様々な準備を、宇宙でテストするミッションになります。アポロ計画とは違い、月に長期滞在する施設を作るのが最終的な目的です。もしまた、われわれの名前を一緒に連れて行ってくれる企画が始まったら、一緒に参加したいと思いませんか?公募が始まったらこのニュースレターでお知らせしますね。

Artemis II の4人が着水するまでの船内の様子を動画で観ていたんですが、途中、感動の場面があり、いろんな SNS にその瞬間がシェアされています。それは紐で吊るされていた Rise が落ちてくるシーンです。そう。地球の大気圏に入り、重力が働き始めた瞬間が映っているんです。フワフワ浮いていたRiseが突然落ちてくるんです。そしてそれに気づいた Reid Wiseman が、ちょんちょんと紐にぶら下がってる Rise を触るんです。重力だ、って。
お帰りなさい。


つづく

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